【ハイゲイン・マスタリング論】音圧とダイナミクスの最適解を解析する
よお。響・ハイゲインだ。
トラックダウンが終わって、いざマスタリングという段階に入った時、多くのクリエイターが「音圧が上がらない」「音が潰れる」というジレンマに陥る。今回は、現代のJ-ROCKやJ-POPにおけるマスタリングの最適解について、アナライザーの数値をベースに論理的なアプローチを解説していく。
Yoshiからのマスタリング・クエリ
そういえばこの間、Sheep IngreyのメンバーであるYoshiからこんな質問をしてきたんだ。
「曲のサビで一気に爆発力を持たせたいんだけど、全体的なラウドネスを稼ぎつつ、UJAMのドラムのアタック感やSynthesizer Vのボーカルの抜けを維持するには、マキシマイザーとアナライザーをどう見ればいい?」
このクエリに対するアンサーは、単にフェーダーを突っ込むことではない。帯域の整理と、トランジェント(過渡特性)の保護という2つのレイヤーで処理を行う必要がある。
Insight 2によるラウドネス&ダイナミクス解析
マスタリングにおいて、人間の聴覚に基づいた音の大きさを測る単位「LUFS」の管理は必須だ。YoshiのミックスをInsight 2で解析したところ、以下の数値が確認できた。
- Integrated (全体平均): -11.8 LUFS
- Short Term (瞬間最大): -7.9 LUFS
- True Peak: -1.0 dB
- LRA (Loudness Range): 8.2 LU
このデータから読み取れる事実は、ダイナミクスが非常に良好に保たれているということだ。LRAが8.2 LUあるということは、Aメロ・Bメロの静寂と、サビ(フック)の爆発力に明確なコントラストが存在している証拠である。Short Termで-7.9 LUFSまで到達しているため、ピーク時の音圧は現代の商用レベルに肉薄している。
ただし、ストリーミング・プラットフォームをターゲットとするならば、Integratedを-10.0 LUFSから-9.5 LUFS付近まで引き上げる余地がある。
帯域バランスの修正(Tonal Balance Control 2)
音圧を上げる前に、帯域のマスキングを解除しなければならない。Tonal Balance Control 2 (TBC2) のRockターゲットと照らし合わせた際、Low-Mid(250Hz~2kHz)の帯域、特に500Hz付近に膨らみが見られた。
500Hz付近の渋滞は、キックの胴鳴り、ベースの基音、ギターのキャビネット鳴り、そしてボーカルの低域成分が衝突する危険地帯だ。ここをEQで Q=1.2 程度、-1.5 dBほどディップ(カット)する。この処理によりマスキングが解消され、音の透明度が劇的に向上する。結果として、マキシマイザーに突っ込んだ際の不自然な歪みを防ぐことができる。
Ozone 11 Maximizerのパラメータ構築
帯域が整理されたら、いよいよリミッティングだ。Ozone 11 Maximizerのセッティングは以下のように構築する。 (※Ozone 11を持っていなくても、手持ちの類似マキシマイザーやリミッターで同じ概念を適用可能だ。アタックタイムの設定や、アップワードコンプの代わりにパラレルコンプを活用してくれ)
1. Mode: IRC 4 - Transient
アタック成分を丸めずにリミッティングを行うアルゴリズムだ。UJAMのようなパンチのあるドラム音源のアタックを保護するのに適している。
2. Output Level: -1.00 dB (True Peak ON)
配信時のエンコード(mp3やAACへの変換)で発生するインターサンプル・ピークによるクリッピング歪みを完全に防ぐための安全マージンだ。これは必須の設定である。
3. Upward Compress: +1.6 dB
ピークを叩くダウンワードコンプとは異なり、スレッショルド以下の小さな音(リバーブのテイルやシンセの余韻)を持ち上げる機能だ。これにより、トランジェントを殺さずにミックス全体の音密度(RMS)を稼ぐことができる。
4. Soft Clip: 10%
デジタルな波形の頭打ちをアナログライクなカーブで丸め、偶数倍音を付加する。過剰に掛けると原音が破綻するが、10%程度であれば適度なサチュレーション(太さ)を得られる。
5.ここからさらに打撃感を強調したい場合は、Transient Emphasis を 10% ~ 15% 程度足してみるのも手だ。スネアのトランジェントがより鋭角になり、オケに埋もれなくなる。
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